2007年9月25日火曜日

ランガ日記最終日。

ランガ日記

なんとかこの島で生き延び、マナもそこそこに溜まったのはいいものの……僕はこの世界に連れてきた男に不審な物を感じていた。
集まったマナは本当にどす黒い何かを帯びていて、このマナを正しく使うのは僕でも難しいだろうに、瀕死に近い彼がまともに使えるのだろうか…?
とにかく、僕は彼にマナを渡すために夢の中の島と現実世界を結ぶ場所に戻ってきたのだ。

万が一の時のために、ある策を用意して。

雄真「……マナは集まったのか?」
ランガ「一応ある程度はね。流石に1000とか集めるのは周りが強すぎて無理だったけど、なんとか300くらいのマナを増やす事は出来ましたよ」
雄真「そうか……まあ、多少満ちないが、これだけあれば存在の確保は可能だろう」
ランガ「ええ、それで兄の居場所は教えてくれるわけですよね?」
雄真「ああ、約束だからな……」

このような言葉のやり取りの後に、僕はこの男雄真にマナを移す作業に入った。

数千もの単語の羅列、最後の呪文を唱えた時に僕のマナはこの島に帰る前と同じものに、雄真には島で得たマナを渡せたのだ。

雄真「……さて、お前の兄だが、FalseIslandにいる……お前のいた場所からは多少次元が歪むが、いけない場所ではないな……」
ランガ「なるほど、それはありがたい話です。それ以上に詳しくは……んっ!?」

突然右手で首を掴まれる。やはり、まずかったか……。

雄真「ははははは、用済みの駒はここまでだ!私はこの力で今度こそガイを抹殺する!手始めに実の弟であるお前を……」

意識が薄れる中、僕は必死に左手を振る。そう、僕の策の合図だ。

ラナ「ったく、なーにやってくれちゃってんのあんた!俺の友人に手を出すなんて許さないつーの!!」

こっそり隠れていたラナが背後から魔法弾を撃ちつける。なんとか右手から逃れる事は出来た。

ランガ「恩に切ります、ラナ。さらに……」

背中に魔法弾を撃たれて軽く悶えているところに特異な呪文が響き渡る。

そう、僕はもう1人、ついてきてもらった人がいたのだ。

???「ふっふっふー、行きますよー!!私の召喚にかかれば悪い人なんかいちころです!!」

その人とはかるるさん。僕と一緒にマナを集めていたちょっとおかしなクノイチとか言う人。
しかし、彼女を肩に座らせて大きな槌を持つその召喚獣はまさに強大。確か、デストロイヤーとか言う名前だったはず。

かるる「さらにさらに、この夢の島で猛威を振るった幻の獣!呼んじゃいますよー?」

そうすると雄真はゆらりと立ち上がり、じっと見据える。

雄真「囀るな小娘……魔法の弾丸」

ズゥンと鈍い音が響く。そう、かるるさんのデストロイヤーの右膝に魔法の弾丸を当てて、バランスを崩させたのだ。

かるる「わ、うわわー!?」

僕は急いでかるるさんの落下地点に風を巻き起こす。風はかるるさんを包んでゆっくりおろし、致命傷は免れた。

ランガ「ふう、まいりますね……仕方がない、あれ行きますよラナ?」
ラナ「OK!そらよぉ!!」

ラナに僕のある魔力を詰めた以外は普通の炎を雄真にぶつける。当然だが、そこまでダメージはない。

雄真「……なんだこれは?……まあいい、まとめて潰すとするか……」

そう言いつつ大詠唱を始める雄真。隙ありだ……!
僕は杖を握り締め、杖の周りに熱い炎を渦巻かせる。
一撃、二撃。詠唱が終わるまでになんとか打ち込めた。
かるるさんも合わせて詠唱を始める、準備は整った。

雄真「では、これで終わりだ……!」
かるる「リアライズ・シムルーグ!!」

強烈な魔法をかるるさんのシムルグが全て受け止める。シムルグですら耐えられないエネルギーの塊であったが、なんとかこれで凌ぐ事が出来た。

ランガ「……準備は整った!フレア!フレア!さらに!!」

渾身の力を込めて、杖魔術のフレアを当て続ける。漸く雄真もその異変に気づいたらしい。

雄真「なんだ!?この炎、食らうたびに熱くなっている!?」
ランガ「それもそうです、この技は当てるごとに相手の炎に対する抵抗力をなくし、じわじわと焼き尽くす技!」
雄真「負けられるか!俺は遊馬の創造物を壊す『ブレイカー』なんだ!!」
ランガ「遊馬と言う方が誰かは知りませんが、僕の兄を危機にさらすわけにはいかない!!」

僕と雄真の最後の一撃が響きあい、決着はついた。確かに雄真を倒す…とまではいかず、結果的にごく薄い存在にするまでに過ぎなかったが。

だけど……。

かるる「ランガくん?ランガくん!?」

どうやら僕も存在が薄くなってきたらしい。なんだか、右手と左手が薄く。

かるる「ダメだからね!ここで死んじゃ!!」
ラナ「そうだぞ!!おりゃ!!おりゃー!!」

必死に回復魔法を使っているようだけど、それでもここで存在を保つ事は出来ないようだ。

……ただ、薄くなっているのは僕だけじゃなかった、見間違いかもしれない、けど、かるるさんも、ラナもなんだか薄くなっていく。

そうだ、言わなきゃいけない言葉がかるるさんにはあったんだ。

しかし、その言葉が届くか届かないかぎりぎりのところで、3人は薄く薄くなって、消えた。





目が覚めると朝日がさしていた。
僕はどうやら昨日の昼からぐっすりと眠り込んでいたらしい。とても長い長い夢を見ていた、そんな気分だ。

しかし、夢は思い出せない。思い出せるのは、兄がとある島にいるという事だけ。

ラナは横でぐうぐう寝ている。珍しく寝言を言っているようだ。

ラナ「ランガー……しぬなぁー、ランガー……」

なんか寝ぼけているようなのでごつんと叩いてやった。

ラナ「いってぇ!!ってランガ?あれ?」
ランガ「何を寝ぼけているんだか…と言うか、どんな夢を見ていたんですか?」
ラナ「それが……なんだっけ?殴られたショックで忘れちまった」

やれやれ、と言う顔をした僕は外に散歩に行く事にした。流石に20時間近く寝ていると体がだるいから、その解消にだ。
とは言っても、散歩に出ることが出来るのは家の庭だけだが。

庭に出ると、一輪の花に一羽のちょうちょが蜜を吸いにきていた。
いつものラナなら、「俺にその蜜よこせー!!」と、ちょうちょを脅かして蜜を吸うのだが、今日のラナは黙ってみていた。

ランガ「ラナ…?」
ラナ「ん?なんだよランガ」
ランガ「いや、今日のラナはおかしい気がしまして。いつもならちょうちょが吸っている蜜、奪いに行くでしょう?」
ラナ「……うん、そうしようと思ったんだけどな」
ランガ「ちょっと、大人になりました、とか?」
ラナ「ち、ちげーよ!!」

ラナは何故か必死に否定する。

ラナ「いやな……あの子じゃないかと思うと、そっとしてやりたいなって」
ランガ「…あの子って誰です?」
ラナ「あの子って言えばあの子だよ!ちょうちょなのに必死に魅惑の術を覚えて必死に戦ってた!」
ランガ「そういえばいましたね…ん?」
ラナ「ん?」
ランガ「なんだろう、名前は出ないのに、なんとなく分かる気がするんです」
ラナ「そう、俺も名前は出ないけど、とってもかわいくて、儚い子だったのは覚えているんだ」

……不思議だ。まるで、どこかで出会ったかのような。

そして僕は部屋に戻る。昨日の勉強の遅れを取り戻そうと机の引き出しをあけると、そこには。

あったのは「宝石のように光るニンジャのクナイと、自分とラナを模して作ったと思われる下手くそな人形」
クナイの方はわずかに魔力を帯びていて、自分とラナを模して作ったと思われる人形には「むっすりくんとようきくん」と書かれてあった。

ランガ「かるるさん…むっすりくんはないでしょまったく…」
ラナ「へへ、俺はようきくんだってさー!!………あれ?」
ランガ「なんですか?」
ラナ「いや、この人形を作った子の名前。なんでランガは知ってるんだ?」
ランガ「かるるさんですか?……そういや言われてみればなんでだろう?」

思い出せない、けど確かに、僕が眠っている間、僕は違うどこかにいた。
この人形や宝石のように光るクナイが、その事を決定付けている。
その時に出会った思い出を断片的にしか思い出せない僕は、さらに魔法の力を磨く事にした。

きっと、断片的な記憶を繋げる魔法が、僕が夢の世界で出会った出来事、かるるさん、ちょうちょの子、そして数多の人々の生き様を思い出せることを信じて。
そして、いつか出会ってこの言葉を言える事を信じて。

「ありがとう」

と。





一方、こちらは夢の世界から起きた忍者の子。
木の上で眠たそうに目をこすっている。

女の子「おーい、かるるちゃーん!」
かるる「ん、ふぁあ、おはようー」
女の子「おはようじゃないよー!里のみんな、かるるちゃんがいないってずーっと探してたんだよー!」
かるる「んー、私がどこかにいって昼寝をするのはいつものことなのになー」
女の子「けど、丸一日いないのは流石に心配するよ!」
かるる「あれ?そんなに寝てました!?うっわ、おなかすいちゃうー!!」

そういいつつ、木から華麗に飛び降りるかるる。
飛び降りた瞬間、なんだか懐の辺りに違和感を感じる。

かるる「あれ?」

ポケットの中に何かを感じた。

中には忍者のマークのワッペンと、なにやら暖かい翡翠のブローチがあった。

かるる「そういや、ランガくんはドワーフの血を継いでて、翡翠工芸得意っていってたっけ。ラナくんも手伝ってたよねー」
女の子「早くしないとおいていくよー!」
かるる「は、はーいっ!!」

女の子を追いかけながら、かるるはぼーっと考えていた。

かるる「そういえば、ランガくんっていつもいつもむすっとしてて、人に感謝するって事知らなさそうな子だったのになあ」

そして走りながら空を見つめる。

かるる「ランガくん、けど最後には『ありがとう』って言ってくれた、その後、お互いに消えちゃったけど」

かるるは里が見えると、里を見つめながらこう思った。

ランガに会ったらこう言おうと。

「どういたしまして」

と。






こんな感じで、堕島のランガとかるるの冒険はおしまい。ハッピーエンドでもなくバッドエンドでもなく、しみじみな雰囲気で終わらせたかったのです。
最後のかるるパートのみ都合上ランガの日記ではないですが、まあそこはしかたなし。

0 件のコメント: